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第24回 ICT効果論 その6 イノベーション資本

 今回は、イノベーションとICT資本との関係を考えていきます。

 イノベーションという言葉は、シュンペータが唱えたことは、つとに有名ですが、その内容は、本来、企業におけるあらゆる革新・変革の総称なので、様々なものがこのなかに入ります。ということは、その様々なタイプのイノベーションから、どのような効果が生み出されるのかもきわめて多様であるといえます。

 そこで、イノベーションの分類やその効果測定などの研究がすすみました。その一つが、「オスロ・マニュアル(Oslo Manual 2018)」(イノベーションに関するデータ収集と解釈のためのガイドライン)です。この中で述べられている「4つのイノベーション」とICT資本の関係を考えていきます。

 このオスロ・マニュアルは、1992年に初版がでて、上記で第四版ということです。上記で述べたように、イノベーションは、経済の新機軸を生み出す駆動力であることは常識化していますが、その定義や内容が区々でした。そこで、このマニュアルは、イノベーションの理解と指標の標準化に向けて策定されたといえます。

 このマニュアルによる用語の定義を確認しておきます。

 まず、「イノベーション」とは、「新しい、または改善されたプロダクトまたはプロセスのこと」であるといいます。さらに、イノベーションは、「成果(outcome)」であり、それを生み出す「イノベーション活動(innovation activity)」は、「企業にとってイノベーションをもたらす開発および企業活動における活動」と定義します。ここでは、活動とその結果を明確に分けたということです。

 図表の真ん中には、成果を生み出すためのイノベーション活動の4つのタイプが書かれています。

図表 Oslo Manual ModelとICT資本

 それぞれを簡潔に定義しておきます。

 第一の「プロダクト・イノベーション」とは「新しくまたは改善された商品やサービス」のことで、第二の「プロセス・イノベーション」とは「新しくまたは改善された生産及び配送方法」で、第三の「マーケティング・イノベーション」とは「新しくまたは改善された製品の設計やプロモーションなどのマーケティング手法」で、第四の「組織イノベーション」とは「新しいまたは改善されたビジネス慣行、業務組織、外部との関係性などの組織手法」であるといいます。この前2者は、技術的イノベーションといえ、後2者は、非技術的イノベーションであるとみられています。

 なお、イノベーションは、公共部門や非営利部門にもありうるので、企業のプロダクト及びプロセスに絞った場合は、「ビジネス・イノベーション(Business innovation)」といいます。

 これまでの数回、ICT資本の効果を考えていますので、それとの関係を考えると、イノベーションは、ICT資本の効果と一部重なるといえます。しかし、ICT資本とかかわりのないイノベーションもありますし、逆にいえば、イノベーションの伴わないICT資本の投入も考えられます。

 もともと、オスロ・マニュアルは、イノベーションのデータ収集や報告のあり方の指針ですので、ICT資本の定義や効果とは直接的には関わらないのです。

 しかし、図表にもあるように、ICT資本は、プロダクトの研究・開発・設計にもかかわり、その生産プロセスにもかかわり、マーケティング活動にも大いに関わっています。さらには、組織間コミュニケーションのあり方にも大きな関係性があります。

 ここで重要なことは、従来の慣行、手法、規則、システムを残したままで、ICT資本を投入しても、その効果はあまり期待できないということも今回は示唆していると考えられます。なぜならば、イノベーションのためには、相当踏み込んだ新規性や改善が前提となっているからです。

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